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「どうも、混沌と申します」

それは、突然ベランダから現れた。

は、何から突っ込めばいいかわからなくなった。だから

「ど、どうも」

なんて間抜けな受け答えしかできなかった。

すると、その混沌と名乗った男性(のような外見だった)は言った。

「すみませんが、しばらくのあいだ居候させて貰いませんか?」

「………ハァ?」

何言ってるんだこいつ?

「ちょっと言ってる意味が理解できないです」

ボクは絶賛混沌中だ。

「まずあなたは誰ですか」

「私は混沌です」

彼はさっき言ったと言わんばかりだった。

「混沌という名前なんですか?」

「違います。僕が混沌なんです。英語で言うとカオスです」

訳がわからない。ただ、ここはいま混沌の中にあるから、あながち間違いではないかもしれない。

そんな考えが一瞬浮かんだが、アホくさ過ぎてすぐに消えた。混沌?はどう見ても人間だった。

「ボクの記憶が確かなら、混沌は物質ではなく現象ですが?」

「違いますね、混沌は物質であり現象です」

「そこまで言うなら、あなたが混沌だということを証明してください」

「今この状況が証拠です」

うーん…確かに今この状況は混沌だ…でも、

「このままだと、あなたがたくさんいることになりますけど」

「そりゃあ、混沌はいたるところで起きてますからね」

「じゃあ、あなたはたくさんいるんですか?」

「物質としての僕は一人ですけど、現象としての僕はたくさんいますよ」

なんだ?この分かりそうでわからない感じは

ボクは次の問に悩んでいると、混沌?が勝ち誇りながら

「じゃあ居候させてもらってもいいですか?」

と言ってきた。残された猶予はあまりないようだった。

ボクが必死で考えていたその時、

混沌?のお腹がなった。

そして、ボクは反射的に、

「あなたは人間ですよね!」

と叫んでいた。混沌?は勝ち誇った顔から一変、額に汗を浮かべながら、

「まあ、そうでもありますね」

と言った。ボクは完全に混沌から脱出した頭で混沌?の言っていたことを整理した。

「確かに混沌を起こしたものは混沌を名乗ることができるでしょう」

ボクは一言一言確かめるように言う。

「だから、混沌を起こしていたあなたは、混沌を名乗ることができた」

「しかし、もうボクは混沌の中にいない」

「なので、あなたはもう混沌ではない、そうですね?」

「……おっしゃる通りです」

「すごいですね。この僕の詭弁を打ち負かすなんて」

「………」

ボクは、この家に居候しようとした挙句、失敗したあとも馴れ馴れしく話しかけてくる

混沌(笑)に、プレゼントを渡したくなった。

「じゃあ僕は帰ろうかな」

そう言って混沌(笑)は帰ろうとした。

「ちょっと待ってください、プレゼントがあります」

ボクは笑顔で言った。

 

 

混沌(笑)はしばらく塀の中に居候することになった。

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